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米国家計バランスシート──純資産 183兆USD・貯蓄率 3%・消費者ローン 5.15兆USD

家計純資産・貯蓄率・消費者ローン債務返済比率の4軸で、米国家計の財務構造を長期データで解剖する。

米国家計純資産の長期推移(兆USD, 四半期)

出典: FRB Z.1 (TNWBSHNO)。家計総資産 - 総負債。住宅価格・株価と連動。

純資産は史上最高圏──「上半分」が押し上げる構造

米国家計の純資産は 2026年Q1 に 183兆USD へ到達。 2008年金融危機時の約 50兆USD から3倍以上に膨らんだ。 ただし、この増加の大半は株式・住宅資産の値上がりで、家計全体への分配は極めて偏っている。

FRB の Survey of Consumer Finances によれば、上位 10% の家計が全純資産の約 70% を保有。 下位 50% は 3% 程度。マクロ統計の「過去最高」は、必ずしも中央値家計の豊かさを意味しない。

個人貯蓄率の長期推移(月次, 1999〜)

出典: FRED (PSAVERT)。可処分所得から消費を引いた割合。1980年代の10%超から長期的に低下。

貯蓄率の構造的低下と「超過貯蓄」の枯渇

個人貯蓄率は1980年代の 10% 台から長期的に低下し、過去20年の平均は 6.1%。 直近 2026年5月 は 3% と平均をも下回る。

パンデミック期 2020〜2021 年に貯蓄率は一時 30%超 へ急騰。給付金と消費抑制で約 2.6兆USD の超過貯蓄が積み上がった。 その後の3年間で家計はこのバッファを消費に振り向け、2024〜2025 年に大半が枯渇したとされる。 今後の消費は 賃金所得の伸び に再び依存する局面。

消費者ローン残高(直近5年, 月次, 十億USD)

出典: FRED (TOTALSL / REVOLSL)。総額(リボルビング+非リボルビング)と リボルビング(=主にクレカ)の比較。

消費者ローンの「2極化」

消費者ローン総額は 5.15兆USD へ。内訳は:

  • リボルビング(クレカ): 約 1.35兆USD。2022〜2024 年の高金利期に伸びが加速
  • 非リボルビング: 自動車・学生ローン中心。3.8兆USD 超

クレジットカード金利は 20% 台と歴史的高水準。リボルビング残高の急増は、家計の一部に 強い財務ストレスがかかっていることを示唆する。延滞率(DRSDCIS)は徐々に上昇しているが、リーマン期に比べればまだ低水準。

家計債務返済比率 vs モーゲージ債務返済比率(四半期)

出典: FRB (TDSP / MDSP)。可処分所得に対する債務返済額の割合。低位安定 = 家計のクッションは厚い。

低金利モーゲージのロック効果

家計の総債務返済比率(DSR)は 2026年Q1 に 11.1641%。 モーゲージ部分(MDSP)は 5.8763%。 リーマン前ピークの 13.2% に比べると 2pt 以上低い水準を維持。

理由は明確: コロナ期の 3% 前後の超低金利モーゲージを多くの家計が固定金利でロックしたため、 Fed の利上げ局面でも借換コストが上昇していない。これが米国家計の 金融政策に対する耐性を支えている。

ただしこのロック効果は 住宅市場の流動性低下という副作用も生む。 住宅を売れば金利の高いローンに借り換える必要があり、引っ越しのコストが上がる。 住宅取引高の長期低位は、この「黄金のモーゲージの檻」が一因。

政策含意

  • 資産効果と消費: 純資産が増えても、それが偏在していると消費を押し上げる効果は限定的。中央値家計の所得・賃金が重要
  • 金融政策のラグ: 米国家計は固定金利モーゲージが大半のため、利上げが家計支出に効くまで通常より長いラグがある。Fed の引締効果が「効きにくい」状態
  • 消費者ローンの監視: クレカ延滞・自動車ローン延滞が同時に上昇すると、家計セクターの財務ストレスのシグナル。SLOOS と並ぶ早期警戒指標
  • 貯蓄率の上昇余地: 賃金インフレの落ち着き + 超過貯蓄の枯渇 → 家計はリザーブを積み直す必要。消費の伸びは賃金 + 信用拡張に依存

限界と留保

  • マクロ集計値で個人の状況を語れない: 純資産・貯蓄率・債務はすべて平均値や合計値。実際の家計の分布は極端に偏っている
  • 「過去最高の純資産」と「過去最低の貯蓄率」が同時成立する: 純資産は過去の蓄積、貯蓄率はフローの直近値。両者は別概念
  • 消費者ローン残高は名目USDで表示: インフレ調整しないと長期推移の解釈を誤る
  • DSR は四半期2四半期遅れて公表: 「現在」と書いても2〜3四半期前の数値
  • FRB Z.1(資金循環統計)の改定が頻繁: 過去データも遡及改定されることがある
  • 住宅資産は時価評価: 実際に売却するとコスト(仲介手数料・税金)がかかる。「純資産」は売却可能額ではない

データ出典

使用データ 出典
家計純資産 FRED (TNWBSHNO)
個人貯蓄率 FRED (PSAVERT)
個人消費 FRED (PCE)
消費者ローン総額 FRED (TOTALSL)
家計DSR FRED (TDSP)

※ データは各機関の公開統計を当サイトで収集・加工したものです。最新値は各出典元でご確認ください。