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金 $4,090・銀 $63──金/銀比 64倍が示すリスクオフの現在地

金価格は史上最高値圏、銀も上昇しているが、金の上昇率の方が大きく、金/銀比は約72倍に達した。実質金利(10年債利回り−CPI)との理論的な逆相関は近年崩れつつあり、金は単純なヘッジ資産から「中央銀行の準備資産」へとアイデンティティを変えつつあるかもしれない。

金(直近)
$4013
/オンス
銀(直近)
$56.04
/オンス
金/銀比
71.6
10年平均 69倍
米実質金利(10Y−CPI)
%
2026年7月

金/銀比(直近10年・月次)

歴史的に金/銀比は 50〜80倍のレンジで推移。2020年COVID期に120倍まで拡大し、その後は低下したが直近で再び70倍近辺に。

金/銀比は何を意味するか

金/銀比は 1オンスの金を買うのに何オンスの銀が必要か を示す指標。 歴史的には地殻の埋蔵比率(約15倍)を反映していたが、現代の為替金本位制離脱後は 市場心理や産業需要によって 30〜120倍の幅広いレンジで動く。

過去10年のデータでは、最低 32倍 (2011年4月)から最高 113倍 (2020年4月)まで動いている。 2020年3月のCOVIDショックでは産業需要の急減で銀が急落、金/銀比は120倍超に達した。 直近の 71.6倍 は歴史的平均よりやや高めで、 産業需要(銀は半導体・太陽光発電・電気自動車に大量に使われる)の弱さと、 中央銀行買いによる金高(後述)が同時に起きていることの結果だ。

金価格 × 米10年実質金利(散布図、直近10年)

伝統的には実質金利と金は逆相関(金利上昇=金不利)。赤=直近24ヶ月、灰=それ以前。直近では実質金利が上昇したのに金も上昇する珍しい現象が起きている。

実質金利と金の関係は崩れつつある

理論上、金は無利息資産なので実質金利が上がれば不利になる。 実際、2010年代の散布図では明確な右下がりの関係が観察できた。 ところが直近2〜3年の点群(赤)は 実質金利が上がっているのに金価格も上昇 という 理論を裏切る位置にある。

この乖離の有力な説明は 中央銀行買い だ。世界金協会の集計では、 2022年以降の世界の中央銀行による金購入は年間1,000トン超で歴史的高水準にある。 ドル制裁を受けたロシアや、米中対立を意識する中国・新興国が、 ドル準備の代替として金を積み増している。 市場の限界購入者が「金利を気にする民間投資家」から「金利を気にしない準備機関」に変わると、 実質金利との理論的な関係は崩れる。

金・銀価格の推移(直近10年)

ピンクが金、グレーが銀。両者は同方向に動くがブレ幅が異なる。

代替仮説の検討

  • 「金/銀比上昇 = リスクオフ」とは限らない。銀の産業需要構造(太陽光・EV)が変化している可能性も
  • 「実質金利との乖離 = 中央銀行買い」は仮説。地政学的不安・ETF需要・インフレ期待の不安定化など他の要因も並列で効いている可能性
  • 「金=安全資産」の定義自体が変化。デジタル資産(暗号通貨)も同時に「代替貨幣」として注目され、金との競合関係に
  • 「実質金利」の計算方法によって結論は変わる。CPIではなく PCE デフレーター、ブレークイーブン・インフレ率、TIPS実質金利を使うと違う絵が見える

限界と留保

  • 金・銀価格は Yahoo Finance の COMEX 先物連続(GC=F, SI=F)。スポット価格とは僅差がある
  • 実質金利 = 米10年債利回り − 米CPI前年比 で計算しているが、本来は将来期待インフレ率(TIPS スプレッド)で計算するのが正確
  • 本記事の月次データは月平均または月末値。短期の急変は反映しきれない
  • 「中央銀行買い説」は世界金協会の四半期データに依拠するが、本記事内では数値を直接引用していない
  • 金/銀比は「投資先選択」の指標として使われることがあるが、過去のパターンが将来も続く保証は無い
  • 地殻埋蔵比率(金:銀 = 1:15)は地質学的事実だが、市場価格は需給で決まるため理論値とは大きく異なる

データ出典

使用データ 出典
金価格(ロンドン午後フィキシング) Yahoo Finance (GC=F COMEX Gold Futures)
銀価格(月次, USD/オンス) Yahoo Finance (SI=F COMEX Silver Futures)
米10年国債利回り FRED (DGS10)
米CPI前年同月比 FRED (CPIAUCSL)
米コアCPI前年同月比 FRED (CPILFESL)

※ データは各機関の公開統計を当サイトで収集・加工したものです。最新値は各出典元でご確認ください。